企業インタビュー#9 ~猪原[ 食べる ]総合歯科医療クリニック~

こんにちは。びんごデジタルラボ事務局です。

インタビュー第9弾は,福山市で歯科クリニックを開院されている「猪原[食べる]総合歯科医療クリニック」様です。

企業 Profile
企業名 猪原[食べる]総合歯科医療クリニック
本社所在地 〒720-0824 広島県福山市多治米町5-28-15
業務内容 ・完全予約制の歯科医療
・外来診療,訪問診療
企業ホームページ https://inohara-dental.net/

猪原[食べる]総合歯科医療クリニック様は,「業務」を深く理解し「課題」を明確にした上で「kintone(※1)」を活用することにより,業務改善に取り組まれています。

  1. ※1:サイボウズ株式会社が提供するクラウドベースのデータベースプラットフォームで,ビジネス向けに簡単なアプリケーションの作成やカスタマイズが可能

今回インタビューに応じてくださったのは,理事長の猪原 健 様とCTO(医療情報技師)の前田 浩幸 様のお二人です。

この記事でわかること
  1. 業務改善の第1歩は「業務」と「課題」の理解
  2. 業務改善に終わりはなく,企業は変わり続けなくてはいけない

クラウド化で時間ロスを削減

―早速ですが貴院の取り組みについて教えてください

猪原様:はい。まずは当院について簡単に説明します。

一般的な歯科クリニックとは違い,直接クリニックに受診して頂く外来診療と,歯科医師が患者さんの自宅に伺う訪問診療の二つの診療ルートを設けています。

訪問診療は外来診療とは異なり,診療情報が保存された院内の紙カルテやオンプレミスサーバー(※2)に接続できない状態での診療になります。外出中に必要な情報にアクセスできないので,場合によっては「クリニックに戻って情報を確認する」といった時間のロスが生じていました。

  1. ※2:サーバーを自社内に構築して,自社で運用する形態

また,訪問診療のカルテは同じ内容を複数のシステムに転記する必要があり,効率が悪く残業が発生する原因になっていました。
そのため,これらの課題を解決する「どこでも情報を確認可能」「1回の作業で複数媒体への利活用可能」といった環境を整備していく為にも「診療情報のクラウド化」が必須要件でした。

このような背景があり,訪問診療の「診療情報のクラウド化」が実現できるkintone導入に向けて動きだしました。

理事長の猪原様

画像:理事長の猪原様

業務と課題の理解が成功への鍵

―kintoneの導入経緯についてもう少しお聞かせいただけますか?

猪原様:はい。kintone導入のきっかけは,同席している前田さんとの出会いまで遡ります。

kintone導入以前は別のアプリケーションを使用していましたが,そもそも医療情報用に作られたものではなく,不具合も頻繁に発生していました。 そのため,既存のアプリケーションではなく,環境や業務にあわせたカスタマイズができる汎用性の高いアプリケーションを求めていました。
そうした中,当時インターンシップ生として来ていた前田さんにkintoneを使ったプロトタイプアプリを紹介・作成してもらい,kintoneの高いカスタマイズ性であれば柔軟なシステム導入が可能であると実感しました。

その後,前田さんが正式に当院のメンバーとして加わり,課題解決に向けて本格的に始動していくことになります。

―前田さんが加入してからはどのようにデジタル化を進めていったのでしょうか?

前田様:当院の環境・業務にあったアプリケーションの開発には職務理解と課題の特定が必要だと考え,実は入社して5ヶ月間ほどはkintoneによる開発は行っていません。
まずは研修という名目で訪問診療に同行し,訪問診療自体の理解と課題の特定に努めました。

―まずは「理解する」ことが大切なのですね。

前田様:そうですね。
納得感を得られないまま業務改善を進めてしまうと,院内での反発が生じ,場合によってはさらに状況が悪化するリスクにもなります。そのため,まずは「業務」と「課題」を理解することに徹しました。

また,アプリケーションを導入する際も院内全体に導入するのではなく,比較的業務改善へのモチベーションが高い部署・メンバーの小規模導入から進めました。

その結果,小さな成功を積み重ねることで,徐々に院内でも受け入れてもらえるようになっていきました。

最終的には当初の目標であった「診療情報のクラウド化」に成功し,訪問診療で生じていた重複業務の課題も解決し,担当者の残業を1日あたり約2時間の削減に成功しました。

医療情報技師の前田様

画像:医療情報技師の前田様

データの一元化で患者にさらに寄り添いたい

―今後はどのような形で効率化を検討されていますか?

猪原様:今現在の課題は「データの統合」だと考えています。

医療情報のクラウド化により「訪問診療」のデータ管理は楽になりましたが,既存の「外来診療」と2種類のデータベースが存在することになり,管理の面で不便さが残ります。
kintoneで作成した「訪問診療カルテ」と従来の「外来診療カルテ」の統合を目指しています。

―データ統合によってどんな変化があるのでしょうか?

猪原様:カルテを1つのシステムで管理できるようになると,当院の強みを最大限生かせる様になると考えています。

クリニックに来られる元気な患者様は外来診療に,外来が難しくなった患者様には訪問診療に。全ての患者様の「おいしく食べる(※3)」を支えることにフォーカスしています。

  1. ※3:詳細は猪原[食べる]総合歯科医療クリニックHP,「当医院の特徴」を参照

この外来診療と訪問診療のデータベースの一元化ができるようになると,患者さんの一生分の医療情報を管理できることとなり,当院が真に提供したい価値を患者様に提供できるようになります。
また,データの統合以外にも「セキュリティの強化」や「(アプリケーションの)スマートフォン対応」なども継続して取り組んでいきたいです。

―素敵なコメントをありがとうございます。最後に読者の方へアドバイスをいただけますでしょうか。

前田様:デジタル化推進を担当する人は社内に変化をもたらす責務を担っている以上,孤独を感じることも多々あります。そのため,社内外にデジタル化推進について相談できる仲間や理解者を作ることをお勧めします。

私は,kintone café(※4)というコミュニティに所属し情報交換を行っています。

  1. ※4:kintoneの初学者からプロフェッショナルまでの幅広い層を対象に,kintoneの魅力や活用方法を共有しあうための勉強会コミュニティ(詳細はこちら)
https://www.kintonecafe.com/

新規にシステムを導入するという変化は長期的にみれば業務改善ですが,短期的にみれば業務を変更することになります。変化が起きると一時的に業務が増えてしまい,社員からすれば業務を増やした厄介者として風当たりが強くなってしまうこともあります。
上長はどんな時でもデジタル化推進担当者の味方であって欲しいです。

猪原様:社員が職場の変化を嫌うのは仕方ない事です。そこをどうやって納得させ変化して行くのかは社長や代表者のリーダー力だと思います。

我々もkintoneを導入したら終わりではなく,絶えず変わり続けていかないといけません。

「停滞は緩やかな衰退」という言葉を胸に変化をめんどくさがらず恐れず挑戦していく,私自身そんな覚悟を持って行動していこうと思います。

―貴重なお話ありがとうございました。

インタビューの様子

画像:インタビューの様子

インタビュー記者の感想

デジタル化を進める為にまずは「業務」と「課題」を理解することが大切であることがわかりました。また,前田様のkintone活用術にとても驚かされました。

お忙しい中インタビューへのご協力ありがとうございました。

取材者:びんごデジタルラボ事務局